成瀬弘 連載05

セノグラフィー

成瀬弘

1993 「雅」フランス国立東洋美術館(成瀬弘 04 不可視の空間)

1994 「Team Zoo」展 IFA展示場

1997 「日本庭園」展 バガテル公園トリアノン

2006 「陶磁」展 セーブル国立陶芸美術館

2008 「京都に於ける禅と芸術」展 プチパレのパリ美術館

   「黒澤 明」展 プチパレのパリ美術館

セノグラフィー

セノグラフィーはかなり実験的な作業となったが、今までの共通のテーマは、展覧会とはなにかを問い直すことと、ミステリアスともいえる空間をどう心地よく安定したスペースにするかである。西洋の古典的な展示はスペースの概念は無く作品がぎっしりと並べられている。フランスの個人の邸宅に飾られる作品も同じで壁いっぱいに並べられていて驚く。床の間というスペースの中に掛け軸を吊るすという感性はないし、その前に生け花を置けば絵の邪魔になるということで避けられ、両者の関係を楽しむことをしない。フランスの古典的な庭園にもスペースの感覚はない。広さはあるがスペースを楽しむのではなくそこに置かれた刈り込まれた木やレース状の模様や散りばめられた彫刻を楽しむのが主要なテーマである。見え掛りや気配という概念は無く庭をよく見る場所も固定されている。森の中の木と木の間の隙間を楽しんだり枝と枝の空間を楽しむ枝ぶりという概念も無い。さらに発展させると西洋で景色を描いた絵画は東洋に比べずいぶん遅くそのような概念がが生まれのも同様で景色を意識するのも希薄なのだと思われる。そこで生まれるのがジョン・ケージの無音の音楽やルシヤン・クロールの「全てがペイザージ」という本になる。

元来日本にはアートや美術館という概念は無かったはずである。そんな時代にできた作品郡をアートとして西洋の美術展示方式にゆだねるのはどうであろうか。ともかく展覧会は情報が多すぎるし見方を一方的に強要してくるようで非常に疲れる。そこで出来たら散歩に行くような感じで観賞できるようにするのがいいのではないかと考えている。単純化すれば開かれた展示を目指している。散歩は見方を強要されないし日々発見があり見る側の主体性が保持できる。情報が過多ののこの時代は一人ひとりの人が主催者の意図とまったく違う見方や読み方ができる展示がいいのではないか。現在は格差の時代だといわれているのにも関与していると思われる。格差は一般的には貧富の差が語られるが、科学や技術の利用レベルや文化的レベルや種類の格差もどんどん拡がっていて日常的な生活の仕方も大幅な格差が発生している。この格差が現代社会にとって非常に大きな問題になっていることは言うまでも無い。

しかしさらに大きな問題は、科学技術の発展や、知的文化レベルの高度化がそれらを使い営む人々の本質的な対応が出来るかどうかである。人類の歴史は新しい技術などの発展が起きたとき必ず世界的混乱を生み出す、近年の例では産業革命のあと二度の世界大戦を引き起こしている。人類そのものを置いてきぼりにした変革は必ず何等かな混乱を生み出すようだ。そして現在がまさにその時代だといえる。そこで私のセノグラヒーは知識情報が欲しい人にはそれも出来るようにはするが、それ以外の人たちにもなんらかの体験をとおし知識以前の新しい発見が出来るようにしたいと思っている。

Team Zoo展 IFA「フランス建築研究所」1994

この展覧会では三点の実験をした。

・全て自分の手で造りだす。

・自然素材で作る。

・固定的でなく仮の姿を残す。

この三点は大きな展覧会や正式な美術館の中では出来ないし、特別な主催者が居て初めて可能になる。家具を除いて全ての展示物を天井から吊り下げた。

使った材料は柳の枝、麻紐、竹、笹の葉、石、布、木の枝等々である。

入り口には一本の紐に直角になるように大きな笹の葉を何枚も縛りつけ、それを何本の天井からぶら下げた。そして入場者がその横を通るたびにわずかな風がおこり葉が揺れてサラサラという音がした。

天井から吊り下げたのはテンションとコンプレッションの構造的な実験と同時に触れば揺れるという不確かさと緊張感を展示した。

天井の一点から伸びた紐は床の上に置かれた石に固定されている。その紐の間には竹や棒が挟みこまれ固定される。それは模型を置く台になったり、写真を展示す支えになったりしている。大きな力を加えない限り大きく崩れたりはしないが、常に震動が伝わっており見る側と展示物との不思議な関係が出来上がる。

床に固定するための石はそれ自体が展示物になったり結界を作ったりしている。

そこでは展示物と鑑賞者と展示物を支えるものの関係が曖昧になりより深い体験が出来るものと思っていた。


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