建築主の責任と建築行政の役割-国民のための建築法を作ろう

神田 順

 1 建築基本法制定準備会の誕生

建築基準法は1950年に制定され、その後、自然災害などを受けて、何度も改正されているが、1998年には、国際協調、規制緩和をねらいとした大改正があった。そこでは専門家の間での議論が十分になされないままに、新しく性能規定化、民間確認機関の導入、連坦建築物容積率などが法制化されたという経緯がある。

2年という短期間で、施行令・告示が整備され、結果的に単体規定に関しては規制強化、集団規定に関しては規制緩和という内容となり、国際協調性を期待したものとは、むしろ逆の方向の改正になっていた。そして2003年8月、約200人の建築専門家有志を中心に、建築法規制を基本から考え直すべきということで、建築基本法制定準備会(以下「準備会」と略す)が発足した。

建築にかかわる専門家が、「建築基準法がおかしい」ということを口にしたり、思ったりすることが多いのにもかかわらず、多くの人は、どうすべきかというところまでかかわろうとしない現実がある。準備会では、その後、わが国における建築の法制度のあり方について、議論を重ねてきた。そもそも法は何のためにあるかも考えた。地方でのシンポジウムもいくつか開催して来たし、議員会館では、議員参加のもとでの議論もして来ている。それら議論を経るごとに、持続可能社会における建築についての法のあり方を見直す時である、との意を強くしている。

建築基準法には建築の理念を記すことなく、最低基準を詳細に定めるものになっている。その後作られた多くの建築関連法も、建築基準法を前提としており、部分的に補完する形の多くの法律が存在する。都市計画法や消防法は建築に大きくかかわる。住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)や耐震改修促進法なども、建築基準法を補完するものとして整備された。他に関連法として、住生活基本法。区分所有法、景観法、空き家対策特別措置法、バリアフリー法などもある。

建築基準法制定時の1950年における社会状況において必要とされた、効率的に建築するための法が、災害発生や新技術誕生によって改正を重ねることになり、基本理念のないままに、法の記す最低基準建築を再生産し、スクラップ・アンド・ビルドを促す制度になっていることは、社会にとっても大きな損失である。質の良い建築による資産が蓄積されることになっていない。

その時代に応じた法律が必要である。建築が圧倒的に足りなかった時代と、建築が余っている時代では、社会の求める建築の意味が変わってくる。圧倒的に足りなかった時代には、とにかく建てること自体が社会の要請としてあった。それが経済を支えたし、資源を使うこと、生産増加させることが、国の発展であった。時代は変わった。市場が建築生産を原動力にして、経済成長を旗印にすると、土地は床で埋め尽くされる。新しい用途が経済を回すとなると、まちに住み続けられる権利も蔑ろにされてしまう。市場原理の行き過ぎに制御機能を果たすのは、行政であり、その根拠となる法律が必要である。どのような質が求められるかが問題であり、そのために、関係者それぞれに求められる役割がある。その基本を確認するための法律が必要ということである。

専門家の判断に任せるべきところを、法で規制し硬直的な運用がされるということは、技術の発展を阻害し、専門家の力が発揮されないことにより、社会の活力を削ぐことにもなる。

建築の現行制度は、多くの法や慣行によって定まってきており、今の社会のあるべき方向としての、持続可能社会、地方創成社会に対応していない。あるべき姿へと、ただちに変革することは難しいとしても、その方向への扉を開けることが必要である。建築基本法制定によって、関係者がなすべき方向が見えてくると考える。基本は、建築主の社会に対する責任の共通認識を持つことであり、その支援としての行政の役割である。

これまでに建築は、社会的な問題としてもさまざまな形で現れて来た。いくつかの具体的な課題を考察・検証する中から、新しい社会制度へ向けての基本的あり方を考えてみたい。それを可能にするための建築基本法の生活者としての市民・国民の側からの提案である。

参考文献

1)持続可能社会と地域創生のための建築基本法制定、建築基本法制定準備会編、A-Forum出版、2020年

SLAB – Global Criticism of Architecture & City & Housing


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