建築主の責任と建築行政の役割-国民のための建築法を作ろう
神田 順
8 まちづくりとビジネスモデル
まちづくりは、そのまちが、気持ち良い空間構成になっていて、住民にとって暮らしやすいことが達成されるように計画され実施されるべきものである。そもそも収益を目的とする事業ではないので、すでに述べたように、これからは地域や地区のNPOなどの非営利事業としての展開が望まれる。大規模再開発など、公的な資金もあてにした上で、建築を作ることで収益を上げるというビジネスモデルは、持続可能社会には相応しくない。横浜の大規模マンションでの事件(2015年)、何百とある杭の数本が不備だったことに対し、その杭を改修するのでなく、全棟建て替えというような壮大な社会的損失が、市場経済ということで実際に起きていることは、何かおかしいと、誰しも思っているはずである。
これまでの再開発が、デベロッパー主導で、自治体も都市計画コンサルタントなどの助言を受けてきたとは言え、住民の権利は床面積でのみ保証して、収益性を最大化することになりがちであった。収益性となると10年、場合によっては5年での収益を見込むことになったりするので、極端にいうと建物を建てることだけが目的化するようなことになって、望ましいビジネスモデルとはとても言えない。
まちづくりは、30年、50年を考えた暮らしやすさ、気持ちのよい住空間を社会資本として形成していくことが動機としてビジネスを回すものでなくてはいけない。収益性にこだわらないということは、将来のまちのあり方に自治体としてどのような地区計画で臨むのかということを、より民主的に判断するということである。
公開緑地を設けることで、容積の割り増しが付いて再開発プロジェクトが回るという手法も、もはや過去のものとすべきである。どのような用途のどのような建物が必要かということがまずあって、それがその土地にふさわしいものかが重要である。今まで取られてきた以上に、緑地の復権は大切であろうし、周辺の景観を保全することが、必要であれば、将来にむけて投資すべきということでもある。
有限な土地と、地価の上昇と、敷地所有者の権利が優先されるという条件で生まれた、タワーマンションの投機目的の投資というような歪んだ建築は、まちを醜くし、コミュニティーを破壊する。有限な土地は、経済効果のために利用されるものではない。それを制御できるのは、市民の声であり、それが自治体の建築行政でなければならない。現実にそのような役割を自治体が果たせていないで、市場に任せているところに問題がある。
採算がとれなければ再開発もできないということが、採算が取れれば再開発ができるということを意味し、採算が取れるという構図は、不動産所有者から安く買い上げて、次の使用者に高く売るモデルをつくるということになっている。土地利用をどのような形で計画し、収益・採算を動機にするのでなく、暮らしやすいまちづくりを動機とする展開への専門家の知恵を、自治体が活用する必要がある。
横浜の大規模マンション全棟建て替え事件も、建築物が建築基準法に適合しないということで、貨幣価値が0になるという社会認識も問題であるが、基礎の改修で十分に質も担保できることを専門家や行政が説明できなかったことに社会の歪みを感じる。問題発生の時点で、自治体が介入することで、杭の改修という形で、解決できたのではなかろうか。建築は住むための器としての機能が価値であり、市場価格が価値を与えるものではないはずである。持続可能社会の基本にある地球環境影響としても、全棟建て替えは許されざる対応であったと考える。
参考文献
1)持続可能社会と地域創生のための建築基本法制定、建築基本法制定準備会編、A-Forum出版、2020年
2)耐震強度」とは何か、神田順、科学vol.76,4、2006年、pp.356-363
3)耐震偽装問題は建築基準法が原因!、インタビュー神田順、建築知識2006年5月号、pp.75-77
4)神田 順「安全な建物とは何か」技術評論社、2010年
5)神田 順「『イタリアン・セオリー』から考える我が国の建築構造基準」2016年8月、日本建築学会大会講演梗概集20011
6)1998年建築基準法改正に思う、神田順、鉄鋼技術1999年4月、pp.56-59
7)そもそもいかにあるべきか―建築の豊かさと法規制―、西一治、科学vol.74.9、2004 年、pp.1078-1082
8)建築の質の向上に関する検討報告書、日本建築学会、国土交通省平成20年度建築基準整備促進補助金事業、2009年3月
9)神田 順 「建築行政における自治体の役割」2024年9月
10)巽和夫「行政建築家の構想」1989年
11)五十嵐敬喜ほか 「建築革命」建築ジャーナル、2006年


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