香月真大の建築ノート02
AIと建築設計 ― 図面を描く時代の終わり!?
香月真大
ここ1〜2年で、設計事務所の仕事の進み方がかなり変わってきたと感じている。SIA一級建築士事務所では、既存ストック活用を主戦場として、大小様々な案件を同時並行で進めている。その中で、AIを使う場面が急速に増えている。以前であれば、新卒スタッフやアルバイトが数時間、あるいは数日かけて行っていた作業が、現在では短時間で整理できてしまうことがある。例えば、
・CGパースのスタディ・議事録整理・工程表のたたき台・プレゼン資料構成・法規整理の下書き・参考事例の収集・文章整理,
などである。
もちろん、最終判断は人間が行う。しかし、作業の入口部分については、既にAIがかなりの割合を担い始めている。
最近、AIによる図面化の実験として、施主が描いた住宅の間取りスケッチをもとに、「このスケッチを建築図面化して」とAIへ指示する事例を見た。そこでは、施主が描いた簡単な間取りスケッチをAIが画像解析し、部屋の位置関係や扉位置、寸法感覚を読み取りながら、かなり図面に近い平面図を生成していた。もちろん、不完全な部分はある。しかし、方位や部屋構成まで含めて、それらしい建築図面として成立していたことには正直驚かされた。
さらに、その図面をもとに、・屋根を外した鳥瞰パース・家具配置を含めた内観イメージ・外観透視図・夜景パースまで短時間で生成されていた。
以前なら、
施主ヒアリング→ラフスケッチ→CAD化→CGモデリング→レンダリング→プレゼン修正
という流れを、何日もかけて行っていた。しかし現在では、
施主のスケッチ→AIによる図面化→AIによるCG生成→対話しながら修正,
という流れが、かなり短時間で成立し始めている。これは単なる作業効率化ではなく、設計プロセスそのものが変化し始めているということだと思う。

実際、CGスタディについても、以前はラフモデルを作ってレンダリングし、構図を調整しながら方向性を確認していた。しかし現在では、テキストから短時間で空間イメージを立ち上げ、複数案を比較できるようになってきた。
沖縄の別荘計画でも、琉球建築や沖縄の原風景を参考にしながら、深い庇、風の抜け方、白い壁面、陰影の強さなどをCGで検討しているが、初期スタディの速度は以前とは比較にならないほど早くなっている。以前なら、参考事例を大量に集め、ラフスケッチを描き、モデリングを行い、レンダリングを繰り返しながら数日かけて方向性を探っていた。
現在では、まず言葉で空間イメージを整理し、そのイメージをAIで複数パターン可視化し、その中から方向性を選び、そこから人間が寸法や空間を詰めていく流れに変わり始めている。議事録についても同様である。
以前は打合せ後に録音を聞き返しながらまとめていた内容が、現在では自動文字起こしとAI整理によって、大枠は短時間で整理可能になっている。工程表やタスク整理も、以前なら若手スタッフが手作業で行っていた部分をAIが補助する場面が増えている。
これは単なる「便利になった」という話ではないと思っている。設計事務所では、こうした作業を通して若手が図面や空間を学んでいく側面があった。図面を描き、CGを作り、プレゼン資料をまとめる中で、寸法感覚や構成感覚を覚えていく。しかし現在、その“入口”にあたる作業の一部が、既にAIへ置き換わり始めている。
実際、自分自身の実務感覚としても、「新卒やアルバイトが行っていた仕事の一部を、既にAIが代替している」という感覚はかなり強い。特に住宅分野はAIとの相性が非常に良い。
注文住宅では、
「回遊動線」「吹抜け」「南庭」「在宅ワークスペース」「ホテルライク」「和モダン」
など、ある程度共通化された要望を整理しながら空間化していく。もちろん敷地条件や法規条件によって差は出るが、基本的には既存事例の組み合わせによって成立している部分も大きい。そのためAIが大量の事例を学習すれば、一定レベルのプランニングはかなり高精度で生成できる。
実際、海外では既に、言葉だけで住宅プランを生成する研究やサービスが始まっている。AutodeskによるSpacemaker AIでは、敷地条件や日影、容積率、周辺環境などをもとに、建築ボリュームを自動生成しながら最適化を行っている。また、Maket AIやARCHITEChTURESなどでは、自然言語入力によって住宅プランや立面案を短時間で生成する試みが進められている。
さらに最近では、ラフスケッチから図面化を行う研究や、手描き図面から空間を推定する技術も登場している。設計者が描いた曖昧なスケッチをAIが読み取り、平面や立体へ変換していく流れは、今後かなり一般化していくように感じている。
おそらく今後、一般住宅レベルのプランニングや、ボリューム検討、CGスタディなどは急速に自動化されていくと思う。その結果として、単純なCADオペレーションや、一般的な住宅プランを量産する役割はかなり縮小していく可能性がある。
一方で、実務をやっていると、建築は単純に図面を描けば成立するものではないことも強く感じる。例えば神栖で進めているスポーツ施設計画でも、動線計画、防犯計画、設備計画、運営条件など、多数の条件を同時に整理しながら設計を進めている。単純に図面を描くだけではなく、施設運営や使われ方まで含めて考える必要がある。特に既存建築改修では、法規、行政、施工、設備、所有者、近隣、既存不適格など、多数の条件が重なり合う。
古い銭湯改修では、戦後増築を繰り返しているケースも多く、図面通りに整理できない部分が大量に存在する。
現地を見ないと分からない天井裏。増築履歴が不明な部分。行政との協議。用途の整理。避難経路の解釈。既存部分をどこまで残すか。
こうした調整は、単純なデータ処理だけでは成立しない。また、空間そのものについても、人間の身体感覚に依存している部分が非常に大きい。例えば,古い宮造り銭湯に入ったとき、る。沖縄の住宅でも同じで、強い日差しの中で深い庇が影を作り、風が抜けることで温度感が変わる。こうした感覚は、単純な最適化だけでは生まれにくい。
施主もまた、「この寸法でお願いします」と言うことは少ない。「旅館みたいにしたい」「少し暗い空間が好き」「沖縄らしさが欲しい」「落ち着く感じにしたい」という曖昧な感覚を語ることが多い。
建築家は、その曖昧な感覚を、光、素材、寸法、温熱環境、動線などへ翻訳していく。そこには単純な情報処理ではない、身体的な感覚が存在している。だからこそ今後の建築家には、・空間の身体感覚を編集する力・既存建築を読み替える力・法規や行政との調整能力・土地や文化の記憶を空間へ翻訳する力・施主自身も言語化できていない感覚を引き出す力が、より重要になっていくのではないかと思う。つまり、「図面を描く人」ではなく、「建築を編集する人」へ役割が変化していく。
AIは今後さらに進化していくだろう。おそらく図面制作やCG制作、一般的な住宅プランニングは、かなりの速度で自動化されていく。しかしその一方で、「なぜこの空間でなければならないのか」という問いは、むしろこれまで以上に重要になる気がしている。
建築は単なる機能配置ではない。身体、記憶、文化、環境、歴史、人間関係を含めた総体として存在している。だからこそAI時代においては、逆説的に、建築家自身の思想や身体感覚がより強く問われる時代になるのではないかと感じている。
参考事例・参考文献
・Autodesk Research “Project Discover”
・Spacemaker AI(Autodesk)
・ARCHITEChTURES
・Maket AI
・Hypar
・TestFit
・「AIで図面が描けるか?」
・AI生成ツール ARCHITEChTURES
・ARCHITEChTURES – AI-Powered Building Design (EN)
・ ARCHITEChTURES – AI-Powered Building Design (EN) – YouTube





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